まず、建物をもう一枚つくる。
繁華街の立面は、建物そのものではなく「建物に取り付かれた第二の壁」でできている。アングル鋼を組んで骨格を起こし、そこにパネルを張り、管を曲げて文字を置く。看板師は建築屋でも電気屋でもあり、一日に何百本ものガラス管を炎であぶって曲げる。
だから看板は、窓の位置や梁の逃げ方を無視して直に突き出している。出っ張り、重なり、跳ね出す。視認性の要求が構造物を侵食した結果の、あの無秩序に見える密度だ。
参考:壁面一体型/せり出し型/袖看板/屋上広告塔に大別される縦書きの鋼管ネオン、屋上に寝そべる巨大な蟹、高架の隙間に漏れる<|...|>
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繁華街の立面は、建物そのものではなく「建物に取り付かれた第二の壁」でできている。アングル鋼を組んで骨格を起こし、そこにパネルを張り、管を曲げて文字を置く。看板師は建築屋でも電気屋でもあり、一日に何百本ものガラス管を炎であぶって曲げる。
だから看板は、窓の位置や梁の逃げ方を無視して直に突き出している。出っ張り、重なり、跳ね出す。視認性の要求が構造物を侵食した結果の、あの無秩序に見える密度だ。
参考:壁面一体型/せり出し型/袖看板/屋上広告塔に大別される形ネオンは電極を封じたガラス管にガスを仕込み、高圧をかけて放電させる。ネオンガスを閉じ込めれば赤橙、アルゴンに微量の水銀を足せば青紫。管の内側に蛍光体を塗れば緑や黄にもなる。色は塗料ではなく、入れている気体の種類そのものだ。
鋼管は一度曲げると戻らない。ミスは即、廃棄。同じ書体の同じ字でも、店が違えば線の癖が違う。画面上のフォントでは再現できない、この「揺らぎ」がネオン街の質感正体である。
ネオン用シールドトランスの出力は数千から一万ボルト級。それでも電流は数ミリアンペアに抑えられているため、触れても致命的にはなりにくい——とされるが、雨の日の屋外作業は別話だ。管の一端からもう一端まで、高圧が鎖のように連なって渡る。
点滅・部分消灯・流れ、すべて機械式または電子式のリレーで制御する。「チカチカする看板」は故障ではなく、意図的に仕込まれた待機動作であることが多い。
※本図は概念図です。実機の配線・電圧は规格と法令に従ってください鋼管を密に並べた「密ネオン」は保守が高価で、消費電力も大きい。そこで後年、アクリル板の裏からLEDで押しのぼす灯箱(バックライト看板)が普及した。色の切り替えが自由で、夜通し点けても家計がもたない——という旧来の弱点が消えた。
結果、街はより明るく、より均質になった。一方で、曲がり一本の味は減った。現在の繁華街は、形ネオン・灯箱・デジタルサイネージの三代が同時に壁を占めている。
料亭・クラブ・スナックなど風俗営業の営業中、店内照度は一定以上(5ルクス未満にしてはならない、という定め)とされる。暗がりでの接待を想定すると、むしろ「外は暗く、中は明るい」ほうが都合がいい。だから看板は外側へ、外側へと突き出すしかなかった。
屋上大広告もまた、この外向きの競争の極地だった。建物の上、空に直接絵を寝かせる。電飾塔とも呼ばれ、高度成長期の幹線道路沿いに競って建てられたが、現在は維持費と耐震、そして景観条例で急速に姿を消している。
壁面の縦書きと違い、屋上大広告は「空の余白を使う」思想。三形式で並べた
画像素材サイトでおなじみの構文——雨の反射、暖簾の隙間、高架下、ビルの谷
※数値は本ページのための作例(イメージ)です。実測値ではありません。バーはスクロールに応じて伸長します。
※鋼管ネオン/灯箱/デジタルサイネージの比率変化を模式化。1984=風営法施行、2000年代後半=LED急拡大のあたりを参照。
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始発が走るまで、街は一段、階を落とす。総電源が落ちたわけではないのに、シャッターが半分降りた店、点きっぱなしの自販機、非常口の緑だけが残る。
ネオンは昼には不要だし、朝方にはもう半分いらない。あの眩しさは「いま空いている」という信号でしかなかった。信号が消えた街は、ただのコンクリートとアスファルトに戻る。
それでも看板は外されたまま、壁に骨だけ残している。穴、跡、焼け、ペイントの段差。次の夜のために、街は静かに準備している。